- 前回から時給の話をしています
- 途中から読んでいる方の利便性は無視しています m(_ _)m
- すると経営側が労働条件の改革を行いました
労働条件の改革
それは突然起こりました。
しばらくなにも変化がない日が続いてきたのですが,経営者が変わって初めての労働条件の見直しが行われました。
改革の要点は,
- フロントなどを兼務する場合の特別手当の廃止
- 食事の配給を廃止し,1日390円の食事手当を支給
- 物価上昇に合わせて時給アップ
- 賞与の支給開始
特別手当の廃止
ルーム係は誰でもできますが,フロント係や車の移動は誰でもできるわけではありません。
調理や日報の作成ができる人は,経験や能力など一定のレベルに達している方に限られています。
このようなマルチに働いている人には,営業貢献への代償として3000円の特別手当が支給されていたのですが,これが廃止されたのです。
理由は分かりませんが,複合的に働くのが当たり前という方針になったのでしょうか。
逆に見れば,一つのことしかできない人はいらないというムード作りに布石を打ったのかもしれません。
しかし依然として,不器用な人は一定数いるわけで,そうなると器用な人が色々とこなすのは,やるだけ損ということになります。
これは不公平感が募るばかりでした。
私を含め,このことで従業員の全体の士気低下につながるのは必然でした。
食事の現物配給を廃止
賄い食で使っていたお惣菜業者との契約をやめて,1日390円の食事手当を支給をすることになりました。
栄養バランスがとれた専門業者のお惣菜弁当と同格のものが,市販品で390円で売っているかどうかという問題です。
一般的な小売店で買える金額では無かったので,まず家で炊事をする習慣がない方は負担を強いられました。
一方で,家で弁当を作る方としても,たしかに390円程度なら食材を充分にまかなえる金額ですが,家族総動員で働いている労働者はなかなかそうは考えません。
体一つで職場に行けば,なんとかなるという感覚にヒビが入るわけです。
やはり,これまで無料で配給されてきたものを,まして食という本能に関わる欲求を止められた事への不満は,特別に膨満するようです。
もちろん自由度が高いあのC勤メシ天国にもメスが入りました。
そもそも大盛り三人前とか食ってたC勤の奴らのせいで改革が始まったのかも。
C勤は厨房のものに手を行けないというルールが発令されました。
しかしそこはたくましいC勤です。
わんぱくでもいいからたくましく育っていたC勤は,
終わることのない最後の晩餐を毎日続けていました(笑)
ところがそれも,やがてバレることになります。
翌朝の厨房で,膨大な食べ残しがゴミ袋を膨らませていれば,そりゃ気づきますよね。
ついに責任者が日単位で在庫を厳しく管理するようになり,C勤の隠れ晩餐会も無理となりました。
ただでさえゴジャッペ大好きな県民にとって,庶民に根付いた聖域に貴族の触手が伸びたことは,大きな不満の種となりました。
A勤は主婦が中心なので,緩やかに足並みをそろえて手作り弁当を持参し,なんとかしのいでいました。
しかし事業主が多いB勤には,顕著な変化が表れはじめました。
休憩で夕食を食べる人と食べない人がバラバラになってしまいました。
食べない人は,食べている人の邪魔にならないように休憩を拒否するようになったのです。
また食べる人は自分の勝手に済ませるのですが,食べていない人への配慮のせいか,肩身を狭くするようになったのです。
また,ホテルの食材を食べたい方は,卸値で購入して月末にまとめて支払うシステムにしてくれたのですが,なんせ皆平等の精神が極めて強い県民性は,足並みが揃っていない雰囲気を潔しとはしませんでした。
さらにこのことで職場の雰囲気に変化が生じました。
各自が個別の行動をすることによって,休憩時間という礼拝の儀式がなくなり,職場の一体感がなくなったのです。
昭和初期生まれが往々にして持っていた同じカマドの飯を食うという労働の美徳を失ったことにより,何ごとにも疑心暗鬼を助長さ,互いの関係がギクシャクし始めたのです。
戸惑いと遠慮,そして嫉妬が入り混じった雰囲気は,殺伐とした空気を蔓延させるのに時間を要しませんでした。
これらは直ちに売上に影響を与えるものではありませんでしたが,離職者が出始めたり,人間関係が希薄化してしまいました。
まるで独り言をさらに奥深いところでつぶやくような沈黙の閉塞感が漂いました。
新しい時給制度
この時代はバブル経済の崩壊で,上がりきった物価は下降の風潮でした。
そこに来てちょっと意外だったのですが,なんと時給がアップしたのです。
A勤が700円(+50円),B勤が800円(+100円),C勤が900円(+150円)。
手当や食事の廃止による負担を時給に転換させたものだと思われますが,労働者は合理的な考えができる人ばかりではありません。
目に見えるものが消滅し,それが目に見えないで補填されたとしても,虚無感のほうが優るようです。
時給が上がったことに対して悲観的な考えを持つ人が圧倒的でした。
さて実際の月給額は以下のようになります。
A勤105,000円(7,500円アップ)
B勤120,000円(15,000円アップ)
C勤180,000円(30,000円アップ)
目に見えて給料が増えているのですが,数百年根付いた農民根性がギャーギャーと,とにかく騒ぎます。
そのわりには,表立って感情を顔に出す人はいませんでしたが…
また一律に時給が上がったわけではありません。
時給のアップ率がABCで異なったことが,あの人達からの不満を増幅させました。
そう,天下御免の主婦で占めるA勤です。
あれらは普段から甲高い声です。
百戦錬磨のC勤でさえあのパワーには負ける…というか,面倒なので関わりたくないので敬遠される対象なのですが,なんせ人数が多いので大変な騒ぎが勃発しました。
A勤だけ+50という如実に小幅だったのは,たしかに同情する面もあります。
まぁ分からなくもないですが,しかし私はこう解釈しました。
人が働きたくない時間帯で働くB勤やC勤へ,会社の利益を潤沢に配分する考え方は経営の観点からむしろ健全ではないでしょうか。
求人の応募もA勤が多いのは間違いないですから。
まぁ青二才にそんなこと怖くて言えませんでしたが。
離職が増えたが
ところが立派な風体で経営の原則を唱えたところで,この出来事は下々の従業員にとってショックを与えたのは事実です。
なかには長年やっていた方も職場を去っていくようになりました。
しかしそこは大人の対応というか田舎のらしさというか,辞めるとは言わずに,本業が忙しくなったのでしばらく休みます等と,波風を建てずに去って行く姿が多かった。
責任世代の大人は,どこまでも気遣いを馳せるものです。
当時はそんなことなど気も留めませんでしたが,あれから○○年も経ったいまになれば,その心意気に痛感するところです。
そういえばいつも会社側に立っていた,ごますり大好きのルームリーダーIさんも,さすがにこの変革には辟易としていました。
あぁIさんまでも…。
私はこの職場が崩れ去る音が間近に聞こえていました。
教訓
これらの動乱で,私はある教訓を得ました。
それは仕事には金に変えられないものがあるということ。
そして会社から無償で支給されるものには,損得計算とは違う,かけがえのない心情が宿っているということ。
これは親子の愛情に通じるかも知れません。
金じゃないんだ。もちろん物だけでもないんだ。
大切に思われているという,心の充足感なんだということです。
ちょっと情に傾倒したので,今回はここまで。
次回は,あなたが働くならどの勤務?というアプローチから始めます。
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